(4)
アルビジョア十字軍によって滅ぼされた異端の街
★★★ 2014年9月訪問
感想:
16世紀の宗教改革のはるか以前より、ヨーロッパではカトリック教会の封建制的な教会組織とカトリック至上主義的な教義、さらには世俗的な皇帝権力と闘争し、その権力まで取り込んでいくといった状況に人々は疑問を感じるようになってきます。12世紀ごろからこのフランス南西部ではアルビやトゥールーズを中心にして「カタリ派(アルビ派またはアルビジョア派)」と呼ばれる宗派が流行しました。カトリックの教義に相反するこのカタリ派は、ローマ教会から異端とされ、世に言う「アルビジョア十字軍」が派遣され徹底的に弾圧、殲滅されました。その残忍さは熾烈を極めたそうですが、このアルビの街も完全に陥落し、それ以降ローマ教会の大司教が絶対的に支配する司教都市として生まれ変わりました。訪れてみますと、サント=セシル大聖堂を中心として、アルビの歴史地区全体はレンガ色の濃い茶色で統一され、とても重苦しい雰囲気が漂っています。威厳に満ちたローマ教会や、この地に派遣された大司教の組織的な管理支配の厳しさを、今でも感じることができます。フランスをはじめヨーロッパの旧市街地はとてもカラフルな色彩の家々が並んでいますが、このアルビの街はそれらと全く違う陰鬱な雰囲気を醸し出していました。特に美しくさわやかな山岳地帯からこの街に入ると、より一層そのように感じました。そういう意味でこのアルビの街はとても特徴的です。フランス南西部からピレネー山脈方面には、カタリ派の人々が迫害から逃れ、隠れ住んだ村の跡が数多くありますので、この街を起点として、謎とロマンに満ちた中世の異端の歴史をたどる旅に出かけても面白いと思います。
旅の様子は、旅の随筆、「フランスを走る!後編:南半分、ニースからボルドーまで5000キロ、レンタカーの旅」で。
アクセス:ル・ピュイ=アン=ヴァレーからコースとセヴェンヌ地方、ミヨー経由でレンタカー
タルン川の対岸からヴュー橋、アルビ旧市街、そしてサント=セシル大聖堂を望む。すべてレンガ色・・・。
アルビの街に威容を誇るサント=セシル大聖堂。大聖堂は街のいたるところから見えます。
サント=セシル大聖堂祭壇部分。
ベルビー宮(13世紀建造)。現在はロートレックの作品を展示する美術館となっています。
レンガ色で統一された旧市街地。
タルン川を挟んで、旧市街地の対岸を望む。
ヴュー橋と対岸の街並み。川の色までレンガ色です。
どこもかしこも、あくまでもレンガ色・・・。
地中海と大西洋を結んだ17世紀の運河
★★★ 2014年9月訪問
感想:
トゥールーズからカルカッソンヌまで車を走らせて行くと、幹線道路に沿ってミディ運河に出会うことがしばしばあります。南西部のワインの生産量と流通量が飛躍的に増大したのは、このミディ運河の完成によるところが大きいと言われています。その建設にあたって最大の難問は、起伏の激しい地形の各所にある高低差をいかにして克服するかでした。標高の一番高いところに貯水湖を作り、各所にダムを作り、運河に常時水をもたらしました。高低差のある所では各所に設けられた水門で水面が同じになるまで水量を調節し、船の航行を可能にしたのです。産業革命にも影響を与えたこのミディ運河は、17世紀の建設当時としては大変な国家事業で、建築技術から土木技術、地形測量、幾何学などの英知の結集だったのです。またその驚異的な技術力だけではなく、ミディ運河が作り出す風景の美しさでも感動させられます。運河の両側には船を曳く馬が通る小径が設けられ、強い日差しから守るための木々が植えられ、その整然とした並木が水面に映っている光景はとても美しいものでした。その後輸送手段は鉄道にとって代わられ、このミディ運河はその役目を終えるわけですが、現在ではレジャー用のボートがのんびりと航行しています。僕が今回訪れた中では、カルカッソンヌ郊外のサン=ジーン水門で、偶然レジャー用の船が高低差のある所を航行する様子を見ることができました。閘門の手前まで水門番の方が人力で船を引っ張り、水門を開け、一段低い前方の水路に同じ水位になるまで水を流し、航行を可能にする光景の一部始終を見学できました。その間およそ20分位ですが、手間暇かけた温かみのある船旅といった感じでした。いつもは時間に追われる旅ですが、このような美しい風景の中を時間をかけて、ゆっくりと船旅するのも悪くないと思いました。
旅の様子は、旅の随筆、「フランスを走る!後編:南半分、ニースからボルドーまで5000キロ、レンタカーの旅」で。
アクセス:トゥールーズ、カルカッソンヌからレンタカー
トゥールーズ市内を流れるミディ運河。両脇に木が植えられ、馬車が船を曳くための小径があります。
何と、トゥールーズからカルカッソンヌへ行く高速道路のパーキング・エリアにミディ運河がありました。
カルカッソンヌ駅前にもミディ運河が流れていました。 水位を変えるための水門。
カルカッソンヌ市内を流れるミディ運河。
カルカッソンヌ郊外のサン=ジーン水門。左のおじさんが人力で船を引っ張っています。
水位を調節して、水門を超えました。後ろの水位と手前の水位が異なっています。やっと無事通過!
中世ヨーロッパ城郭都市の典型
★★★★ 2014年9月訪問
感想:
フランスにおいて、ヨーロッパの中世の雰囲気を味わうことのできる最高の場所は、このカルカッソンヌのシテ(城塞都市)を挙げることができるのではないでしょうか。車でカルカッソンヌの新市街地を抜けしばらく行くと、小高い丘に巨大な城壁が見えてきます。オード川に架かるヌフ橋を渡ると、次第にその姿の全容を現します。しばし車を止めて威容を誇るその雄姿を眺めていますと、ついに中世の街カルカッソンヌにやって来たんだという感動がこみ上げてきました。丘に登りまず驚くのはその城壁の高さで、長い歴史の中で難攻不落と言われ、それもなるほどと納得できます。中世には先ほど述べましたカタリ派殲滅のためのアルビジョア十字軍の拠点にもなっていました。ナルボンヌ門よりシテに入ってみますと、いつものようにお土産屋さんやレストランなどが軒を連ねており、フランスで二番目に観光客を集める観光地だけに、大変な人でごった返していました。しかし、一歩裏路地に入り、すり減って鈍い光を放つ石畳を歩いていますと、静寂が堅牢な城壁とともにシテを包み込み、特に夜の徘徊は旅人を中世へと誘ってくれます。天守閣にあたるコンタル城には、中世当時の彫刻や調度品などが展示されており、より立体的に中世の人々の様子を垣間見ることができました。また城壁からの眺めは、いくつも聳える塔と城壁をアクセントにして、カルカッソンヌの街を一望することができます。アクセス等、観光地としても非常に整備されていますので、誰もが気軽にヨーロッパの中世を感じるには最適な場所ではないでしょうか。
旅の様子は、旅の随筆、「フランスを走る!後編:南半分、ニースからボルドーまで5000キロ、レンタカーの旅」で。
アクセス:アルビからレンタカー
オード川よりカルカッソンヌ歴史地区を望む。
城門の入り口、ナルボンヌ門。ここからシテに入って行きます。
シテを取り囲む二重の城壁。 アーチをくぐってシテ内部へ。
かなり巨大な城壁です。 シテの街角で。
中世の音楽隊。とても賑やかでした。
サン=ナゼール=バジリカ大聖堂(11世紀建造)。 バラ窓(13〜14世紀)。
城壁からの眺め。 中世にタイムスリップ!
シテ内部にあるコンタル城。右から2つ目の塔は、ヴィオレ・ル・デュクによって復元された貯蔵塔。
コンタル城から城壁と塔を望む。 城壁は歩けるようになっています。
深夜のナルボンヌ門。 夜のシテを徘徊・・・。
ライトアップされた城壁。
|