AOPY の世界遺産訪問報告
                                                        クロアチア旅行記(1)
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知られざる俳句大国



  クロアチアの友人、スンチカさんから送られてきたメールの中に、その年の3月にザグレブで開かれたひな祭りの写真がありました。その中にどこかで見覚えのある方が写っていました。その方は以前NHK・BS放送の「地球俳句」という番組に出演されたヴィシニア・マクマスター先生だったのです。彼女は1992年まで日本に在住され、芭蕉の研究家として有名な方です。また、俳人としても活躍され、多くの作品を世に出されています。たまたまその番組が再放送されましたので、僕はスンチカさんに番組の内容と感想を、映像の写真を添えて送りました。

  クロアチアをはじめ旧ユーゴスラヴィアの国々では俳句が盛んで、世界で最も短い最高の文学であると評価されているそうです。日常の様々な出来事や風景の一瞬を切り取って、五七五と言う短い言葉に封じ込めるということが、彼らにとってとても斬新で素晴らしい表現方法であると絶賛しているのだそうです。僕はそれまで俳句なんて興味も知識も全く無かったのですが、なんだか日本人としてとても誇らしく思いました。しかし僕はクロアチアで作られた俳句に大きな衝撃を受けたのでした。僕達が考える俳句は普通、風景とか季節とかを詠んだ風流なものですが、彼らの作った俳句のテーマは戦争が多いのです。戦争が俳句のテーマだなんて僕達日本人には想像も付かないですが、ちょうど時期がユーゴ内戦のころだったからでしょうか。逆な言い方をすれば、戦争が日常生活だったともいえます。ヴィシニア先生の作品で非常に印象的な句があります。
    we pick chestnuts
   in silence-the earth trembles
   from the bombing
      
         (栗拾う 静寂の中 爆撃が)

栗を拾っている時、静寂を破って地面が揺れ動くほどの恐ろしい爆撃あった事を詠んでいます。彼女はクロアチアの小学校の授業で俳句を取り入れ、子供たちに教えていらっしゃいました。その生徒の作品には僕も衝撃を受けました。
    Pred starom kucom
   sjedi zgurena baka
   medu kokosima

      (古い家の前 うずくまって座るおばあさん にわとりに囲まれ)

わずか9歳の女の子の句です。目の前でおばあさんを爆撃で殺され、にわとりがおばあさんを守るかのように集まってきた。という句なのです。そのほかにも戦争でこころを傷つけられた人々、チトー政権下での社会主義時代の過酷な強制労働を強いられた人々が辛い思いを乗り越え、俳句を作ることによって心を癒されたという人々がいらっしゃるそうです。ヴィシニア先生は、俳句には五七五という規則が設けられていて、その規則にしたがって句を作ることで、自らの感情を制御し、乱れた心に秩序を取り戻す事が出来るとおっしゃっています。先生は俳句が戦争で傷ついた子供たちの心を癒す一つの治療法だと確信したのでした。もちろん、暗い過去のことばかりの事だけではなく、純粋に日常生活の何気ない出来事や風景などの俳句を楽しんで作っていらっしゃる方々も多いのです。それまで僕は俳句なんて全く知識も興味もなかったのですが、クロアチアの人々が作る俳句に非常に興味を覚えました。そんなわけで、僕はスンチカさんの紹介でクロアチアの俳人の方々にお会いするため、クロアチアへ飛びました。
                                     (2003年6月16日)


ザグレブの街角で

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